『パウロ 十字架の使徒』を読んだので感想です。
この本は「#専門家が選ぶ新書3冊」というハッシュタグのまとめで見かけて買いました。初期のキリスト教について詳しく知らなかったので読むことにしました。
パウロの手紙すら読んだことなかったですが、分かりやすくて良かったです(小並感)
前半部分では、パウロの足跡やパウロが活動していた時代のキリスト教・ユダヤ教の状況がよく分かりました。
特に、初期のキリスト教には、ユダヤ民族以外への布教の是非や、ユダヤ教的な律法主義に対する考え方などで対立する二つのグループがあり、当初はユダヤ民族以外への布教に否定的で、よりユダヤ教的な「ヘブライスト」というグループが主流派だったけど、第一次ユダヤ戦争によってエルサレムがローマ軍に占領され、エルサレム神殿が破壊されたことによって勢力を弱めていき、替わって異民族への布教に肯定的で、ユダヤ教色も薄い「ヘレニスト」という勢力が優勢になっていったという流れが分かってよかったです。
やや選民思想的で民族宗教的なユダヤ教から生まれ、旧約聖書という形でユダヤ教の考えの多くを受け継いでいるはずのキリスト教が、どうして民族を超えて信仰される世界宗教になっていったのか疑問だったのですが、実際にキリスト教の初期の頃からそのあたりの疑問・矛盾についての対立があり、議論されてきたことが分かって、なるほどと思いました。
また、現代においては整然として見えるキリスト教の色々な教えも、初期の頃には根本的な部分から色々な考え方の違いや対立があり(それこそユダヤ民族以外への布教は是か非かという点や、ユダヤ教的な律法をどのくらい重んじるかなど)、そこから長い年月をかけて色々な議論を経て、今のキリスト教が形作られてきたんだなということも分かりました。
一方で、本書の後半部分について、特に贖罪論に対する論考あたりについては、もう少しキリスト教に対する知識を深めてから読み直す必要があると思いました。
本書の贖罪論まわりの論考について、例えば、「強い」生き方や行為義認論に対する危険性の指摘や、イエスが十字架にかけられたことに対する解釈や、「「弱さ」を生きる」あたりについて、その話の中身は納得でき共感も覚えますが、現代の一般的・伝統的なキリスト教における解釈とは違っていそうだと思いました。まずは贖罪論まわりについての一般的な解釈や、伝統的な受け止められ方を知ったうえで読み直したいと思いました。
ただそういった歴史的位置づけや一般的な解釈の話は抜きにして、本書で述べられている話には、ある種の清々しさがあり、厳粛で謙虚な気持ちにさせてくれるものがあり、いいものを読めたなと思うと同時に、この気持ちを忘れずに生きていきたいなと思いました。
今後読みたい本
- キリスト教の歴史の本
- キリスト教がどのような過程を経て今の形になっていったかを知りたいと思いました
- 特に、アリウス派、ネストリウス派、偶像破壊運動のような異端・非主流となっていった宗派がどのような考えを持っていたか、どのような論理によって否定されたか、世俗に与えた影響、などを知りたいと思いました
- ローマ帝国の歴史の本
- キリスト教の誕生や発展にも大きな役割を果たしたローマ帝国の歴史もよく知りたいと思いました
- イスラム教の歴史の本
- ユダヤ教やキリスト教と同じ神を信仰しているとされるイスラム教が生まれた経緯や広まっていった過程も知りたいと思いました
以上です。